『空白を満たしなさい』 平野啓一郎著 講談社 2012年刊 ★★★★☆
NHKのテレビドラマで同名タイトルで放映されたので、図書館で借りて読んだ。
三年前に、突然自殺した人が生き返る。そして、どうしてそういう行動をしたのか、自らその謎を解こうとする。原作より、ドラマのほうがわかりやすく良い出来だった。
演者が小説を立体的にして、そのひととなりを分厚くしていたから。
しかし、幸せそうに見える生活をしていた者が、ある日突然自殺するということは、現実にも起きている。
主人公徹生は36歳。一歳半で父を亡くして母子家庭で育っていたので、人一倍妻子を愛していた。仕事も順調で家を買ってから働き過ぎて疲労がたまっていたとはいえ。
彼は、一生懸命働くことで周りから浮いてしまい、孤立。警備員の佐伯に嫌がらせを受けるようになる。
佐伯の言葉は、ぐさぐさと心に刺さる。なんでそんなに一生懸命働くのか。彼はこの社会の問題を突いている。
しかし、最後の方で実は妻の千佳が、母親から虐待を受けて来たことが語られる。これは、もう少し詳しくても良かった。だが、死んでから生き返った「復生者」がまた消え去ることがわかり、妻の両親に家族で会いに行って、「千佳を生み育ててくれてありがとうございました」という場面には、涙がこぼれた。
徹生は自殺した。そしてその理由がわかった。
平野は、ひとりの人格の中にたくさんの人格があるという「分人」という言葉を作った。関連本を読もうと思う。
自殺した人は、悔いているだろうか。もし、死後の世界に魂のようなものになって意識をもって存在しているとしたら。
一度死んだら二度とは、こちらに戻れない。自殺者を出した家族は、誹謗中傷される。家族を亡くした悲しみに加えて、・・・。
自殺者3万人。こどもまで自殺する日本社会。自殺を選ばなくて良い、社会にして行かねばならない。