『カラフル』 森 絵都 ★★★★☆ ネタバレ注意
14年前アニメ映画公開時に夫婦で鑑賞。絵に魅力がなかったが、あっと驚く展開だったことを思い出しながら、原作を読んだ。
たまたま本を返しに行くと、返却ワゴンにあったので、以前から読んでみたかった本がそこで待っていてくれたのだ。
とても読みやすくわかりやすい。こども向けのファンタジー小説。
ああ、どうして日本ではこどもが自殺するのだろうか。悲憤慷慨していたわたくし。そうだ、そのとおりだ!と声を大にして叫びたくなった。
物語は、あの世へ向かう魂になったものが抽選に当たり、地上に還されるところから始まる。ある家のひとりの男の子の体に入って、一年暮らして自分が死んだ原因(犯した罪)を探れと。
その家は一見平凡な四人家族。真が心で泣き崩れているところに生き還ったので、皆大喜びする。しかし、・・・。
だんだん、真がどんな人間だったか、家族にはどんな裏の顔があったのか、学校でどんなふうに過ごしていたのかが「魂」にわかってくる。
とくに良妻賢母である母親が、習い事のフラメンコ教師と不倫をしていたり、初恋の相手が今でいうとパパ活をして、ラブホテルから出てくるところを目撃してしまうなんて!これでは、自殺したくなるのも無理なしだ。
しかし、真が28000もするスニーカーを買って履き、周りから「おっ」と見られるようになってから・・・。このスニーカーを不良たちに大怪我をさせられて強奪されて、「安い靴屋があるよ」と声をかけてくれる級友・早乙女が現れる。
うーん、とても自然な展開だ。確かにナイキの靴が爆発的に売れて、この靴欲しさに傷つけられたりする事件が世界的にも頻発していた。
真は、不細工で背が低く勉強もできない。しかし、絵を描くのが得意で周りもそれを高く評価していた。いじめられても、絵の世界に没頭してひとりでいることを楽しんでいられた。だが、初めてできた友人早乙女くんは、彼の世界を広げた。
そして、家族の裏の顔だけではなく、光り輝く面も真になった魂は知ることになる。
だんだん、いろんなことを知らないで、世界を観ないで決めつけて「死を選んだ」真に、その体を返して本当にもう一度生き返らせてやりたいと「魂」は思うようになる。
しかし、そのために彼は自分が誰で、どんな罪を犯して死んだのかを思い出さばければならない。・・・彼を慕い、彼の絵に魅了されていたチビでブスの佐野唱子が、そのヒントをくれる。
途中で、もしかしたら・・・と勘の良い読者ならば、死んでしまった真の体にホームステイしている魂の正体に思い至るだろう。
ああ、面白かった。そして切なかった。
どうか、どうか自分を殺してはいけない。あなたを愛し、あなたに助けられているものがいる。あなたが気づかなくても励まされているものがいる。また、逆に知らず知らずのうちに誰かを傷つけて苦しめているかも知れないが、・・・・。
お互いに言葉を出し合って、気持ちを伝え合ってほしい。
誤解によって、悩みから死を選ぶことなどあってはならない。苦しみは決して永遠ではなく、あなたを助けたい人は必ずいる。
そういうメッセージをこの物語から受け取った。
この世は実に様々な色で溢れている。ひともいろいろだ。ひとりのひとでさえ、ある面は美しく彩られているが、他の面に暗黒の色も塗り込められている。
純粋なままで、汚れを受け入れないで生きることはできない。
故に★4
母親の不倫は、どうしても現実味が感じられない。世間にはよくあることだとしても、・・・。もう少し、フラメンコ教師が女たらしで生徒の誰とでも「やる」男だと書いてあれば、納得がいったが。
また、真面目で愛妻家の父親がこどもの生まれる前に浮気していたというエピソードは、母親の作り話かもしれぬが、現実味がない。大人の浮気事情はこどもには理解不能。これも筆者は教えたかったのかもしれぬが、このふたりの人物像がぶれている。
平凡な夫婦はそう簡単に浮気しない。故にマイナス1