悶え神を引退 11月28日

  悶え神を辞める

 

「もだえがみ」とは、石牟礼道子の造語か水俣地方の方言かは、定かではありませんが、……。

 病気やさまざまな悩みで苦しんでいる人に、そばにいて助けられないことを嘆き悶え、例えばその人の家の周りをぐるぐる回って、自分の神様に「助けてあげて下さい」と祈ったり、傍にいてともに涙して苦しむ人を指すようです。

 (遠藤周作も、キリストのことをそう描いている)

 私も、絵の教室の先輩(75)のことで、この一年「もだえ神」をしていました。

と言うのは昨秋、この人の一人娘さんが胆管がんで、亡くなられてしまったからです。

 まだ49歳の若さで、2人の子を残して。私はそれを知ってから、いてもたってもいられず、気の毒でなりませんでした。

 憔悴してミイラのように干からびておられましたが、教室を休むことなく出席して絵を黙々と描いておられました。

 しかし、先月22日にやっと彼女と話すことができ、笑顔を見ることができたので、もう悶えることは止めます。(この日の話で、初めて娘さんの死因や様子が判明)

 

 また28日4年ぶりに、以前同じマンションで暮らしていた知人Mから電話があり、嬉しい知らせを聞かせてくれたので、彼女のことで悶えるのは、もう止めにします。

 この人は私より2歳年上で、ガリガリの小柄な女性。髪を真っ黒に染めて、顔を真っ白に塗って、駅ビルの地下食品売り場ではんぺんの製造販売をしています。

 Mは結婚して10年目に授かった一人息子(32)を溺愛して育てましたが、15年くらい前にこの子が高校を卒業する時に、旦那Fが大学へ行かせることに反対。そのことを嘆き、ものすごく苦しんでいました。

 「奨学金で大学に行っても借金を背負わせることになる。大学を出たって、ろくなことねえ」と、Fは言ったそうです。

 (しかし、Fが浪費しなければ、学費の一部くらいは貯金できたはずでした。わが家でさえ、夫の収入(手取り18万円)だけの貧しい暮らしでしたが、こどもの入学金を出せたというのに。ただし、残りの学費は奨学金で借りたので返済中)

 

 その話をしながらMは泣いていました。私は気の毒でならず、彼女の涙の前であたふたして悶えていました。

 Fは暴力は振るわないものの、暴言を吐いて心を傷つけ、妻を支配する人。

Mは、旦那の横暴さを語り続け、悪口ばかりを言うので、私がそれならば離婚すれば良いのではと勧めると、自分の母が離婚していて非常に苦労させられたからと、自分は絶対に離婚しないと決めているの一点張り。

 Fは転職を繰り返すので、Mが必死に働き、家事もこなしてそのパート収入で夫子を養って来ました。

 

 69歳になった今Mは退職しましたが、ネットサーファーで、昼間寝て、夜寝ないで夜食もたらふく食べていて、百貫デブ状態だそうです。

 数年前に心筋梗塞を起こしており、通院していますが、……。

 いずれ近い将来Mは、Fを介護しなければならなくなるでしょう。

 

 しかし、息子S君は大学に行かせてもらえなくても、Fを恨まず、独学で絵の才能を活かして必死に就活を続けて、ゲームの原画制作会社に就職。

 

彼は、社交的で優しいおしゃれな青年に成長し、2年後には家を出て独立。

 

 電話で、Mは来月S君が二年間の同棲を経て、お相手と入籍すると教えてくれました。

 あの時、嘆き悲しんでいたMさんだが、S君は泣かなかった。自ら道を拓き、才能を開花させたのです。彼は、両親に似てとても小さな身体だが、逞しく立派な好青年になった。  そして今、新しい家庭を作ろうとしている。