映画館へ行こう ポンのおすすめ映画

 

「ほかげ」 

2023 ★★★★★  ネタバレ覚悟


塚本晋也監督作品
12月1日映画の日、映画館へ行き夫婦で鑑賞。


この映画は、毎日NHK連続テレビ小説「ブギウギ」で見ているかわいこちゃんの趣里さんが主演とのことだったが、いやいや。主演は「戦争孤児の坊や」だった。

 暗い奥の部屋に、小さな女が眠りこけているところから物語が始まる。やけに美しい白い足の裏が、薄い布団からはみ出している。この女は、透き通るように美しい肌をしている。

 恐らく戦後、焼け野原と化した東京の片隅が舞台。瓦礫の中に建つ焼け残ったボロボロの食堂。この建物の煤け具合がすごい。窓ガラス一つ一つの焼け残り感が、とてもリアルだ。

 この家は夜も鍵をかけない。女ひとりでは物騒なのに。しかし、夜来る客を相手に身を売る商売だからなのだ。

 もしかしたら、この女は生きるために身を売っているものの、いつ殺されても構わないと覚悟しているのか。
 この店に闇の酒を運び客を斡旋する中年男は、ただでおま⭕️こをして女から斡旋代を売り上げから搾取して帰って行く。

 ある夜突然小さな男の子と復員兵がこの店に来て、……。初めは、追い出そうとしていた女だったが、やがて三人は家族になっていく。
 
 女の凍った心がゆっくりゆっくりと、溶けて行く。

 しかし。生きて帰って来られたのに、男は戦地での恐怖の体験が、夢に出て来てうなされるのだった。ある時、闇市の方から、大きな火薬の破裂する音を聴き、彼は恐れ慄き大声を出して震えてパニックとなる。そして次の時には、遂に、……。
 女は、男に襲い掛かられる。だが、坊やは男を撃退する。この子は、拳銃を拾い隠し持っていたのだ。

 だが、この銃を持っているということで、舞台は反転。黒いダボシャツの男(役 森山未來)に声をかけられて、坊やはこの男に一週間の約束で「仕事」に行ってくると言う。
 女は拳銃を使う仕事をするなら出ていけと、坊やを追い出す。
 坊やに、新しい白いシャツを彼女は丁寧に縫って仕上げ、着せてあげたばかりなのに。
シャツがゆっくり仕上げられる場面も美しかった。
 男の相手だけで何もしようとしなかった女が、坊やを愛することで心を回復して行ったのだ。裁縫道具は奥の部屋にあった。彼女は、男と坊やに「絶対にこの部屋の襖を開けてはいけない」と言っていた。初めてそこに死んだ家族の遺影が祀られているのを、坊やに女は見せる。初めて、自分のことを語る女。

 買春している姿を、遺影だとしても愛していた家族に、決して見せたくなかったのだと観客はここで知る。

 当時戦災孤児は、自ら生き延びるために働いていた。まだ5、6歳のこどもでも。女は、坊やに真っ当に働け、泥棒はするなと言う。

 一体、ダボシャツの男は何をするために、拳銃を使うのか。誰を殺したいのか。
二人は延々と歩く。畑のとうもろこしを生で齧り、川で魚を掴み取りして食べながら。夜は焚き火をして野宿する。すると、この男も寝言でうなされるのだった。

 ある家の囲いの奥から、若者の呻き声が聞こえてくる。格子の間からおにぎりを与えるその男の母は、泣きじゃくりながらその場を去るが、ダボシャツの男は格子から手を差し入れて彼の頭をそっと撫でるのだった。

 この続きは書かない。是非映画館でご覧下さい。
 戦後生まれの監督と役者ばかりになっても、ここまで戦争の悲惨さを想像して描けるものなのかと、感服し涙がとめどなく流れた。
 これは戦時、戦後の様々な記録をヒントに塚本が作ったフィクションだが、男の目的と彼の言葉が、まったく腑に落ちた。

 そして役名に固有名詞が無いことは、塚本監督の狙いなのだろうか。

 坊やの役を演じた塚尾桜雅くんは、撮影時6歳か7歳。こどもにやらせるには、ケアが必要ではないのではと、思える恐ろし場面が あったが、彼自身が充分その必然性を理解していた。

 彼は「戦争が終わって帰って来たひとも、ずっと苦しめられるのだ」と思ったそうだ。

 

 映画館を出て駅に向かうと、「ビッグイシュー」を売る人がいた。久しぶりに買った。帰宅して表紙を見ると趣里ちゃんだった。インタヴュー記事も良かった。
 彼女は、wow wowでも、東京貧困女子というドラマの主演をしているという。
デビューから13年。いよいよ彼女の真価が認められて来た。

 ビッグイシューを買おう。内容がとても良い。ただし、450円はちと高い。貧困家庭のぽんには。だが、ホームレス支援の活動のためならば。写真、記事どれも読み応えがある。